2016
官民ファンドの産業革新機構は、シャープに3000億円規模を出資して官主導で再建を進める方針を固めた。中核である液晶事業の立て直しにとどまらず、シャープを家電事業再編の受け皿にする思惑がある。不振企業の救済ではなく、「成長事業への投資」という機構の事業目的に沿った支援策を打ち出せるかが問われる。
革新機構はシャープ株の過半数を取得する方針だ。その上で、液晶や家電事業を社外分社化するなどして他社との統合を進める。液晶事業は、将来的に革新機構が約36%出資する中小型液晶大手、ジャパンディスプレイとの統合を目指す。規模拡大で投資余力を高めて次世代技術を開発、競争力を向上させる。家電は東芝などとの統合を検討する。
主要取引銀行であるみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行には、1500億円の債務を株式に振り替えてもらうほか、両行が保有する2000億円分の優先株を革新機構に無償で譲渡するよう求める。この優先株は、両行が昨年6月、シャープの債務返済負担を軽くするため、シャープ向けの融資(シャープにとっては債務)を切り替えていたもので、それに続く金融支援となる。シャープには、台湾の電子機器受託生産大手、鴻海(ホンハイ)精密工業も買収を提案しており、両行は詳細を比較して最終判断する。
シャープを巡っては、革新機構や経済産業省が昨夏、液晶技術の海外流出を防ごうと支援の検討を開始。当初は液晶に限定した支援を模索した。より踏み込んだ本体出資にカジを切ったのは、液晶事業立て直しに必要な資金を工面することに加え、残るエアコンなどの白物家電を再編の受け皿にする思惑があるからだ。
革新機構は、液晶事業の過剰な生産設備を減らして採算性を高める考え。その過程で損失が発生するため、財務基盤を分厚くしておく。家電事業も分社化し、東芝の同事業と統合して成長させるシナリオを描く。家電は、インターネットにつなげて利便性を高める「スマート家電」が注目されている。
ただ、機構のシナリオが奏功する保証はない。スマート家電は、パナソニックなどの国内勢のほか、アジアや欧米のIT企業も開発を進める激戦分野。東芝の家電事業は赤字で、統合すれば新たな技術やサービスの開発で優位に立てるわけではなく、不振事業の“延命”に終わる可能性もある。
革新機構は「新たな付加価値を創出する革新性を有する事業」に中長期の資本を提供するのが役目。本体出資は救済の印象を伴い、政府内でも慎重論がある。林幹雄経産相は22日の閣議後会見で「単に救済するような支援を行うことはない」と断言しており、事業目的と整合的な支援策を提示できるかが焦点となる。【横山三加子、宇都宮裕一】