2016
3Dのさらに先を行く、映画観賞の新たな形-。体感型の「4Dシアター」が続々と大阪に登場している。映画の場面に合わせ、アトラクションのように座席が動き、水しぶきや香りなどを体感しながら観賞するシステム。この“次世代シアター”によって観客動員数の増加が期待され、映画業界はわいている。(橋本奈実)
◆遊園地との違い
「プシューッ」「ガタガタ」「ピカッ」。映画のシーンに合わせて五感を刺激するさまざまな特殊効果が作動、そのたびに客席からどよめきや歓喜の声が巻き起こる。
これまで映画観賞は、通常の「2D」、高画質で高音響の「IMAX」、立体感を味わえる「3D」があったが、いずれも「見る」映画だった。そこに登場したのが体感型の「4D」。遊園地のアトラクションとの違いは、映画のストーリーを重視し、特殊効果は作品に入り込むための“補助”だということだ。
現在、4Dシアターは、米ロサンゼルスの「メディアメーション社」による「MX4D」と、韓国の「CJ 4Dプレックス社」が開発した「4DX」の2種類がある。「ジュラシック・ワールド」「スター・ウォーズ」の新作などは「MX4D」「4DX」のいずれもが楽しめる。
◆物語ありきの演出
さてこの2つのシステム、体感型という基本コンセプトは同じだが、そのシステムは少し異なる。どう違うのか-。
まず「MX4D」。関西では昨年12月に、TOHOシネマズなんば(大阪市)、西宮OS(兵庫県西宮市)でスタートした。客席シートが前後、左右、上下に動き、風やミスト、香り、ストロボ、煙など11種類の特殊効果を搭載。プログラミングは米ハリウッドでしている。
昨年12月にTOHOシネマズなんばで開かれたデモンストレーションには、タレントのレイザーラモンHGさんとRGさんが来場。HGさんは「足元に何かが触れているような(シートの)動きにビックリしました」と話していた。
「MX4D」を開発した米メディアメーション社と日本での独占販売契約を結ぶソニービジネスソリューションのデジタルシネマ営業課プロジェクトマネジャー、條々淳さんは言う。
「物語のバランスを見てどこでどのようなギミック(仕掛け)をかけるのかを決める。大切なのは、いかに映画のストーリーに入り込めるか。物語ありきなんです」。システム上は11種類の特殊効果を同時に作動することも可能だが、物語上、必然性のないことはしないという。
「主人公の乗る車が曲がるとき、自分も一緒に動いてしまうことってありますよね。それを作品に入り込む手段としての演出です」
システムは空気圧式で、なめらかな動きが魅力。ミストや風などの勢いも繊細で、子供から高齢者まで幅広い層に合いそうだ。
◆劇場の武器に…
一方、「4DX」。関西では7月のアースシネマズ姫路(兵庫県姫路市)を皮切りにイオンシネマ四條畷(大阪府四條畷市)、109シネマズエキスポシティ(同府吹田市)、ユナイテッドシネマ枚方(同府枚方市)などが導入する。
座席の動き、顔や耳をかすめるエア、ミスト、香りに、頭上から降り注ぐ雨や強風、嵐、強力なフラッシュ…。さらにシャボン玉のような泡やなんと雪まで、現在11種類ある多彩な特殊効果が魅力だ。
開発した韓国「CJ 4Dプレックス」のシニアアナリスト、キム・ドンヒョンさんは「すでに韓国では導入しているが、日本でも温風を取り入れ、爆発シーンなどがよりリアルに体感できると思う」と語る。
特殊効果をつけるエディターは30人。「環境と動きのスタッフがそれぞれ各シーンを何百回と見ながら作り上げる」。ただ、特殊効果は「MX4D」同様、乱発はしない。「あくまで映画を楽しむためのもの。ギミックを出し過ぎないことは意識している。2時間の映画なら(シートの)動き3割、(雨風などの)環境2割ぐらい」とキムさん。
システムは、「MX4D」が空気圧式なのに対し、油圧式。メリットは「映画のディテールに合わせて、より細かな調整ができる」ことだという。激しい嵐や強風なども体感できる「4Dらしい4D」という印象。ミストは座席のボタンで止めることができ、顔をぬらしたくない人も安心だ。
昨年12月に導入したばかりのユナイテッドシネマ枚方の石塚真貴恵支配人は「劇場として武器になる」と声を弾ませる。
2Dや3D、IMAXで見てから、4Dでその違いを楽しむもよし。映画館から足が遠のいていた人は、4D目当てに劇場へ行くもよし。映画観賞のスタイルの選択肢が広がり、劇場での観客が増えそうだ。