2016
広島市で昨年6月、男子大学生がインスリンなどの薬物を投与された末に殺害され、現金が奪われた事件で、容疑者の男が逮捕されてから25日で1週間。男と大学生は6年前、入院先の病院で知り合い、大学生が手にした大金目当てに近づいたことなどがわかってきた。しかし、地味な生活を送っていたという男がなぜ、大学生から現金をだまし取ったうえ殺害したのかなど、不明な点も多い。(児玉佳子、森西勇太)
■「生活費に…」
強盗殺人容疑で18日に逮捕された広島県安芸高田市の無職、山本勝博容疑者(43)は、広島市安佐南区の広島修道大4年、佐藤裕樹さん=当時(24)=の自宅で、「元気になる」などといって、佐藤さんに複数回にわたって抗鬱剤やインスリン製剤、殺鼠剤などを投与。昨年6月23日に意識をもうろうとさせて浴槽内に入れて殺害し、数万円を奪ったとされる。
山本容疑者は殺害前の同年5月、佐藤さんに株の投資話を持ちかけて現金100万円をだまし取ったとして、今月7日に詐欺容疑で逮捕されており、「生活費に使った」と供述していた。
ガス壊(え)疽(そ)という病気で約15年前に右足を切断していた山本容疑者は両親と自宅で生活。母親によると、外出することは少なく、自宅でパソコンをしていることが多かった。
収入としては月額10万円程度の障害者年金があり、母親にとって、同容疑者が消費者金融などから借りていたとされる数百万円の借金の理由は「まったく見当がつかない」という。捜査関係者も「ギャンブルなどをしておらず、借金の理由は不明」と話す。
■接点は病院
山本容疑者は地元の高校を中退し、ガソリンスタンドで勤務していたが、約20年前に病気を発症したことから退職。足を切断した後も入退院を繰り返し、6年前に大けがで入院してきた佐藤さんと広島県三次市内の病院で知り合った。
佐藤さんは退院後もたまに山本容疑者を見舞うなどしていたが、急速に2人が接近したのは、捜査関係者は「親族から佐藤さんに数百万円のお金が渡された後」と説明。佐藤さんからだまし取った100万円の返済を迫られると、配当金などとして渡し、その額は50万円以上になっていたという。
■アリバイ工作も
返済金をめぐるやりとりは、県警が押収した携帯電話のメールなどから明確になっている。いつから殺害を計画していたなどについては、「判然としない」(捜査関係者)という。
山本容疑者は、県警の調べに「インスリンは知人からもらった」などと供述しており、殺害目的で入手した可能性が高い。殺害後には佐藤さんの携帯電話メールに「今、アストラムライン(公共交通機関)に乗ったよ」と送信するなどアリバイ工作もみられ、県警は計画的な犯行とみて捜査している。
消費者金融からの借金や佐藤さんからだまし取った100万円。さらには佐藤さんへの複数の薬物投与…。「病気を発症したあとも、右足を切断した時も気丈だった」(母親)という山本容疑者の心の闇は、いまだに見えてこない。